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活用校の声

茨城県・つくば市立手代木南小学校の声

学校長 後藤みさを先生、1年担当 関美智子先生(日本教育新聞・企画特集のためのインタビューより)

 茨城県にあるつくば市立手代木南小学校に、2008年1月14日号、日本教育新聞社・企画特集「『考える力』を子どもたちへ」の取材のご協力頂きました。「アイテム」算数を導入頂いて3年目。算数の教科指導を通して見えてくる学校の姿勢は、教員研修のあり方、保護者の方との関係の保ち方などにも表れています。紙面ではお伝えできなかった手代木南小学校の魅力を、余すところなくご紹介します。

学校長:後藤みさを先生

つくば市立手代木南小学校HP → http://www.tsukuba.ed.jp/~tenan/

算数指導を通して見せる学校方針

「学校」に求められているものを考える

後藤校長(以下G)

 基本的に本校の場合、まず立地条件との関わりが大変大きいです。研究学園都市という市名の、外れではありますが一角に位置した学校です。しかも保護者の方々が比較的高い学歴で、多くが理系・理工学系の研究所に勤務されています。

関先生(以下S)

 この間の産経新聞につくば市のことが掲載されましたが、つくば市20万の人口に対し、2万2千人(10人に1人)の方が研究者なのだそうです。ただ、当校の保護者の方の比率はもう少し高いと思いますね。ですからやはり学力を高めなければいけないという使命感は強くあります。もともと持っているものがよい子どもたちなので、さらに伸ばしてあげられたらいいな、と思っております。

 環境的に理系の方が多いし、子どもたちも理数系に非常に関心が高いです。普段の様子(生活)を見ていても、ものづくりから始まって、工作や、理科の実験も得意だし好きな子どもが多いです。子どもの興味関心が高いので、それに学校側も答えていかなくちゃいけないな、という思いはあります。
 なんで算数なのかについてですが、これには伝統があります。5年くらい前(平成13年、14年)につくば市教育研究会の研究指定校になりました。そこで算数の研究をしたことがそもそものきっかけです。その後年度が替わり、学校長が変わりということはありましたけれども、脈々と算数に関しては途切れることなく、校内での研究は進められてきました。研究内容の濃淡は年度によって若干ありますけれども、子どもたちのニーズと保護者の方のニーズと、また子どもの将来を考えて、学校側が答えてあげなくてはいけない教科のひとつなのかなと思っております。その点が算数を進めている一番の理由ですね。

「考える力」を育み、交流することができる力をつける

 両輪として国語もかなり力を入れています。本校の子どもたちは、答えを出すことに関しては、(国語も算数も)比較的早く答えを出せる子がおります。しかし、その答えに至る経過について、少し深く考えて、友達の意見と交流したりするということを大切にしたいと考えています。その一環として、ことばの面では「国語」で、問題を解くということについては「算数」で、ということを現場の先生方がかなりこだわって取り組んでいます。子どもたちは理論的な思考は割合得意だし、俗に言えば理屈っぽいんですね(笑)。自己主張が強く、簡単には色々な事に対して納得しないという性格の子どもたちもいます。でもそういう子どもの能力は、生かして伸ばしてあげたいな、と私たちは考えています。折角の(持ち備えている)いい個性ですからね。授業の中では、まどろっこしいこともあるんですけれど(笑)、そういうところを疎かにせず、個々のこだわりを大事にして考えさせています。

記者

 研究指定校になってから現在に至るまで、特に力を入れてこられた点というのは?

 考える力を身につけさせると言う点でしょうか。その上に、さらに考え方を交流させることが出来る力をつけさせたい、と思います。

 本校は、答えまでのプロセスを非常に大事にしています。そこにかなりの時間を割いていこうとしていますしね。テストなどですと、すんなりと解けてしまう子どもがかなり多いんです。そこで、「なぜその答えになったのか」。解き方を色々と子どもたち同士で交流させていきたいという願いのもとに研究を進めていますね。

~「アイテム」算数との出会い~

子どもたちに考える場をあたえる

記者

 そのような背景の中で、「アイテム」に目が留まった理由、きっかけとは?

 「アイテム」を使う前までは、「解けた喜び」「やり遂げた喜び」というものが、子どもたちの中で割合と簡単に手に入っていたんですね。一番は、子どもに考える場(考えさせること)をあたえたいと思いました。ぱっと答えが出てこなくても、子どもたちに「えっ?」と思わせる問題にあたらさせたい、と。そういうものを求めていた時に「アイテム」と出会いました。

 問題集やドリルを選ぶとき、子どもたちの能力全部に焦点を当てるとどうしても真ん中を取ってしまうことが多いです。でも、全部を並べてみて、少し上の方を選択したと言うことでしょうか。
 本校に通う子どもは(環境的な影響が大きく)、多くが大学を目指しているんですね。その点からも、算数が苦手というのは私たちの経験上、先を考えたときに厳しいものがあります。英語については、保護者の方が積極的に力を入れて取り組んでくださるものですから、余り学校が前に出る必要がないんです。 算数については、センター試験の難しい問題も解けるような子ども、県立の高校入試ですと最後の図形の証明問題も残さないで解ける子どもに育ててあげたいと願っております。だから、少し先を見た指導を心がけています。小学校6年間で完結するのではなく、中学・高校・大学と繋がっていくように、「こんな問題もあるんだな」と感じてもらいたいと思います。

 

 加えて、筑波大附属小学校の先生方にご指導いただいている点も大きいですね。本校で算数指導に力を入れている先生たちが、ご指導頂く中で色々な先生方と交流を持ち、その中で「アイテム」を知って採択に至りましたね。実際に採用している学校のお話も聞きながら、「筑波大学附属小学校に負けられない」と思ってやっています(笑)。
  2007年は、11月20日に中米から教育視察団が来校し、当校の算数授業を2コマ公開しました。そういう経験もあって、教育委員会からのご推薦も頂いています。公開授業などでも、物怖じしない子どもが多いですね。私たちとしては、もう少し気を使っていいところを見せて、と思うぐらいです(笑)。
   外部との交流の中で、ちょっと質のいいものを取り入れてみようかなと思いました。解けないことがあっても、みんながみんな(全員が)達成感を持たなくてもいいかな、と。特に高学年になると算数が少し苦手な子もいるから、そういう子どもと一緒に先生も「なぜそうなるのかな」ということを考えていけるという点ですね。そのあたりが「アイテム」を採用したきっかけになっているのかな。

子どもの中にあるプライドをくすぐる

記者

 研究の延長線上として相性がよかったということでしょうか。

 そうですね。特に上の層の子に少し目を向けていかなくてはいけないと感じていました。出来た子が同じことを何度も繰り返しやっているのを見ていると、ちょっと悲しいところもありましたので。「アイテム」を子どもに渡しておくと、時間調整の時にいいですね。すぐに解けてしまわない、という点では取り組んでいる(考えている)時間が長いので。子どもたちの勉強の中では、「アイテム」をやるということが心の中でブランドなわけですね。ドリルをやるのとは少し違った意味に捉えていて、子どものプライドをちょっとくすぐるという感じがあります。出来る子に限って「『アイテム』やってもいい?」と聞いてきます。

答えを求める「過程」を大切にする

 アイテム」を使うのには、もうひとつ理由があります。
 「アイテム」に載っている難しい問題は、先生が(逆立ちしても)なかなかな思い浮かばないような問題も多いですよね。問題を作りだす労力をお金に換算したら、安いものかなとも思います。先生からしたら、その分のエネルギーを他のところに使えますから。基本問題はある程度作れますけれども、子どもが頭を捻らせる問題というのはなかなか作り出せないですよ。実際に、先生方自身もこういう問題を解いてきてないですからね。よっぽど深く勉強してきてないと、厳しいと思いますよ。そういう点では(指導する側の)苦労もありますけれども、先生方の研修も兼ねていますね。時々先生が解けなかったりすることもありますけど。大方、順調に進めてきていると思います。

 「アイテム」では、答えを出すことが目的というよりも答えを求める過程が大事だと思います。
 その辺りがわかっていて、子どもたちも解いていて楽しいんだと思います。「あ、そうなのか!」と子どもが思うことが大切。
 いつも子どもたちには言っているんですけれども、算数・数学は答えを出すことだけが目的ではなくて、考えるための勉強なんだよ、と。考える時間というのは、なかなか持てないんですよね。特にこれから受験に向かっていく子どもたちとは、答えが出ればいいと思いがちなので。そうなる前に、考える喜びを身に付けられたら、もっと勉強の仕方が違ってくるのかなと思っています。

 

 子どもたちも長く使っていると、「アイテム」の問題は質がいいというのが分かるんだと思います。問題を解くことに、面白みを感じていることが伝わってきますね。面白い問題が載っていると分かっているから、むしろドリルでは飽き足らないような子こそが「アイテム」を求めて来るんだと思います。

 そんな子ばかりでもないですけれどもね。

 はい。

 実際に、先生たちの間で「アイテム」で算数が嫌いになられたら困るね、という意見もありました。その点については、私たちもかなり検討しました。だから学校では、「アイテム」だけだと嫌になっちゃ子もいるだろうから、ドリルも併用して渡してあります。それでも、小学校の頃から「アイテム」のような問題に出合っているといいのかなと思っています。小学校の算数は簡単だったけど中学・高校に行ったら簡単じゃなくなるという経験はあまりよくないと思っているんですね。小学校の時にちょっと難しい問題に出合っていると、知的好奇心のある子にとってはいいかなという思いもあります。1年目には先生方からいろいろな意見がありました。ですから、2年目に入るときはそのまま更新を決めたのではなくて、校内でちゃんと話し合いをしました。このまま継続使用をして大丈夫なのかは、現場で話をして決めましたよ。決して「アイテム」を惰性で使っているわけではありません。

記者

 続けて使用するに至ったときに、先生方から挙がった子どもの実態というものに変化は?

 2年目に入るときも、特に抵抗感はなかったことは覚えています。現場で揉めなかったですよね。各学年で話し合いをさせましたが。

校内研修会のあり方を工夫する

教師の自主性を尊重した研修会

齊藤

 先生の中にも文系、理系の先生もいらっしゃいますし、低・中・高学年とで指導方法にも差があるかと思います。先生によっては骨の折れるものという感じがあるかと思うのですが・・・。

 それはあるかと思いますよ。でもあるからと言ってやらないというわけにいかないですよね。
 そのために、本校では校内研修と外部講師を呼んでの研修を重ねています。この業界では「ならす」というんですが、研修会を通して、先生方の能力をならしていくんです。あるものがないものに分け与える、という方法です。少しピントがズレているな、という先生には、その分野ではエキスパートという先生が分け与えていくんですね。国語と算数で交互にして。本校ではむしろ、不得意な教科の部会に入って研修を受けるようにしています。研修の核になる先生は、その教科で免許を取得していて、専門知識が豊富な先生が担当していますけれどもね。クロスして研修を受けるようにしています。だから本来は算数が得意で算数の研究をしたい人も、国語の方にあえて、参加しているというケースもありますよ。
  でも、先生方の研修体制をひとつ作り上げるのは、並大抵の歩みでは出来ないですよ。元来、やりたくなければやらなくてもいいことですから。仕事としてはプラスアルファの部分です。授業と諸々の事務仕事のほかに、自主的に研修を受けるわけですから。与えられた研修をこなすだけでも、かなり大変な事です。加えて自分たちが自主的に研修をするというのは、もっともっと骨の折れることですよ。   
 でも、お互いがやらされているということではなく、自分たちで進めていくことがすごくいいんです。老いも若きも本音で話をして、バトルがあって。本校の研修は先生方の間に遠慮がないですよね。

 そうですね。

 先輩に対しても主任に対しても、若い先生が言えないということがないですから。
 自分がやれるとかやれない、ということを前提にすると話が深まりません。やれてもやれなくても、この授業について思ったことは言いましょう、ということにしているんです。自分の事はちょっと棚に置いて、気づいた事は言いましょうと。これはもう、先生方の中に浸透していると思います。研修会を見ていると、少しハラハラするくらいですよ。みんながよかったよかったという授業に、最後になって私がさりげなく釘をさしたりもします。でも、それでみんなが険悪になることはないので。

研修というのは、みんなが出来るというレベルで発想して行ってはないです。そして「やりなさい」と言われて先取りしてやれることでもない。ですが(部会の)主任は大変ですよ。全ての責任は主任にあると言っていますから。研究授業の指導案も、部会で責任を持って作成しています。指導案があれば、授業自体は誰でも出来るようにしているんですね。ひとりの責任にしないから、先生たちも色々な意見が言い易いんですよ。講師の先生も「ひとりの先生が書いた指導案じゃないから言いますね」と言って指摘を始めますから。スタッフ(部会)の責任だからということで。駄目な授業だったからやり直し、ということもありましたよ。

「アイテム」算数の使用場面

グループ指導で活用

記者

 「アイテム」の具体的な使用方法についてお聞かせ下さい。具体的に授業での仕様場面や、特に重点的にやっている部分はありますか?

 「アイテム」は、少人数指導の発展の方のグループで使うことが多いかなと思います。
 本校ではチャレンジの時間を週に1時間設けてあります。こちらは希望制なんですけれども、 4月に本人の希望で発展コースを選ぶか補充コースを選ぶかを決めています。そちらの発展コースの方は、主に「アイテム」を使って学習を進めています。学習を進めるというよりも子どもそれぞれの進度がありますので、先生が一斉指導を行うのではなく、それぞれに個々に問題を解かせておいてそこに先生が指導に入っていくというスタイルですね。チャレンジの時間というのは3年生以上で行っていますので、3年から6年までは同じようなスタイルで進めています。

4ステップ構成の活かし方

記者

 「アイテム」はひと単元が4ステップに分かれておりますが、主にどの辺りまで進まれますか。

 普段の一斉授業の中で、「アイテム」の素材を使って授業を行うという事は少し難しく、まだ実践に至っていないのですけれども、例えば校内研究で指導案を考えるときに、「アイテム」の問題を見てこの問題を課題として使ってみたらどうでしょう、ということはありますね。トピックの部分(『授業でわかる』『スペシャルアイテム』)は使えるかな、ということが多いです。

1年生も、「アイテム」は練習時間の段階で取り入れています。全体で最後(『ちょうせんしよう』)までは行かないにしても、『かんがえるちからをつけよう』までは進められますね。中には泣きたくなっている子もいますけれども。2学期の段階ではまだ問題のパターンを捉え切れていない部分があるので、こちらで少し説明をしてあげると出来る(解ける)という感じです。5月頃は、まだ(問題の)文意を取ること自体が難しくて・・・。子どもたちは「何を聞かれているのか」を理解することが難しかったので、私が問題を読み、「こういうことを聞いているんだよね」と伝えて子どもたちに解かせるというスタイルでしたね。今はもう大分慣れてきましたので、子どもが自分で読んで取り組んでいます。子どもたちを見ていて、解いていくのが楽しそうです。絵(イラスト)も可愛いし、必要なところにイラストが入っていますので、それを見ながら自分で進められますね。ドリルだけだと、繰り返しが多くて飽きてしまう子もいます。問題の質としても、考える問題が多いのでいいかなと思っています。

基本的には出来るところまで

記者

 どの学年でも、積極的に、自主的に子どもたちが「アイテム」に取り組んでいるのでしょうか。

 特に宿題として出してはいないのですが、時間を見て子どもたちが取り組んでいるところも見受けられます。

 基本は、出来るところまで頑張らせるというようにしています。

 最後の4段階目(発展させよう)のページがどんどん残っていく子もいますけど、それはそれで気にしていないです。先生も気にしないし、子どもも気にしない。当校は全部答えを書き込ませています。それも独特のやり方ですね。高学年になりますとスペース的に(書き込みが)きついところもありますけどね。子どもたちに達成感を持たせたいとう点があります。やったところには赤で○や×がついていて、ひと目で分かりますから。

 ぼく「アイテム」頑張ったな、という感じです。自分で自分を褒めてあげる、といった感じでしょうか。

 ハードルの高い問題ほど、解けたときの喜びは大きいですからね。6年生のこの時期くらいになると、その時解けなかった問題を今またチャレンジしている子もいますね。解けなかった問題は子ども自身が覚えていてね。

 高学年になると、やり方、使い方に慣れてきますので自学(自習)に使えるようになります。
「やりなさい」と言われてやるのではなくて、自分から「ここがやりたい」といって取り組む姿勢が見られるようになりますね。

「授業」でつけたい力

低学年から築かせたい算数の素地「自分の考え方を表現すること」

記者

 1年生から築かれていく素地、というのはどのような力と捉えているのでしょうか。

 普段の授業で、どれだけ「考えさせているか」というところだと思います。教科書を読んで「理解をしている」というレベルでは、この「アイテム」は解けないと思うんです。例えば、クラスの中では先行学習をしているお子さんもかなり多いので、そのような子たちが「あれっ?」と思うような課題を授業で準備しておく必要があります。そうでないと、「これ、習ったから分かるもん」というように答えだけ出しておしまいになってしまいます。ですから、子どもたちはもう答えはわかっているものとして私たちは授業に取り組みます。1年生から、「なんでこの答えになるの?」という視点で授業が始まっています。
 具体的には、先生が「12-5」という式を黒板に書きますね。すると答えは「7」と出てしまうので、「なんで答えは7になるの?」というところから授業を始めます。実際、低学年でも学習塾に行っている子が多いです。なので、ひきざんのやり方は知っている子も多いですね。でも、なぜその答えが出るのか、ということを自分のことばで表現することはなかなか出来ないんです。だからそのレベルまで高めたいなと思っています。

記者

 授業の中で、そのような素地がないと「アイテム」も解けていかないと。

 そうですね。考える問題に当ったときに、そのような素地がないと止まってしまうと思うんですね。 「この問題分からない…」というように。その時に、子ども自身が「今までどんな勉強をして来たかな?」というところまで立ち返って、そこからスターと出来ないと、今までの勉強が生きてこないんだろうなと思います。算数は系統性が強い教科なので、何年生のここでこの勉強をしたな、ということを子ども自身が意識していないとなかなか先に繋がっていかないのだな、と思います。「アイテム」では、既習事項を思い出すヒントになるイラストなども多く入っていると思いますね。

 数字の持っている意味を、子どもたちが分かっているのか分かっていないのか、ということは、研究授業などを見ているとよく分かりますよ。
 例えば、「10から4を取る」ということがどういうことなのか、ということですよね。簡単なようだけど、捉え方はそれぞれ違いますからね。

 機械的に「10から4を取って6」というように答えを出させるのではなく、まず頭の中にイメージをさせたいんですね。だから1年生の4月の段階から、図を描かせて、自分の考え方をノートや黒板に書かせるようにしているんです。そういうことが積み重なっていかないと、「アイテム」の問題には抵抗が出るのかな、と思います。

記者

 この小学校では、「図を描く」ということが日常的になっているわけですね。

 普段の授業の中では、他の教科でも自分の考えを何かで表現するということは毎日、ほぼ日常的に行っていますね。子どもによっては、もう分かったよ、というくらい説明をしてくれますから。先ほど「交流」ということばが出ましたが、自分の考えを発信することは出来ても、友達の考えを受け止めて、自分の考えをよりよい方向に変化させていく、ということがまだ出来ていません。その辺りについては(教師の)支援が必要かな、と感じています。

 いろいろな考えを出してくれるんですね、子どもたちと言うのは。
 でも時には、これとこれは結局同じ考え方なんだ、という場合もあるんです。それを教師が指摘するのではなく、子どもたちに気づかせたいんですね。最終的に同じやり方(考え方)なんだと。
  1年生はまず、いろいろな意見を出させるところから始めていますけど。

 そうですね。言い方が違うだけで、この意見とこの意見は同じだな、ということはよくあります。でも、子どもたち自身がそれを気づくまでが結構楽しいですよ。こちらが言わなくても、子どもたちが自ら気づいた時は、見ていても気持ちがいいです。

 子どもたちがつぶやくんですね。「同じじゃないの」とか「一緒だよね」と。
 そういう子どもたちのつぶやきを、うまく授業で拾っていかないと授業が広がっていかないんです。

着地点の見える授業を目指す

 ある先生が、5年生の授業の中で「こっちの意見に流れた」ということばを子どもたちに教えた、という話をしていました。子どもたちが他の意見を聞いて、その意見の方がいいと感じたときは、「○○くんの意見に流れた」と言うのだそうです。自分の考えと比べて、その子の考えが高度だと感じたときに「流れた」ということばを使ったんですね。自分が納得する、(自分が)折れるということです。子どもたちに、自分の意見と折り合いをつけていくことも教えていかないと。そうでないと、平行線のまま授業がゴール(終わってしまう)することがありますから。

 授業でいろんな考えが出ても、結局いろんな考えが出ただけで終わってしまうのでは、算数の醍醐味、練り上げの部分がなくなってしまいます。色々な考えの中で自分の考えと比較して、相違点などを探っていきながら最終的にどの考え方が一番数学的に価値が高いのか、というところまで持っていきたいと思います。 でもなかなかそこまで行かないのが現実です。折り合いがまだ付いていなくて。

 そうね、地球の温暖化問題みたいなものですね。まだ発達段階ではあると思います。優秀な先生方の授業を見ていると、その折り合いのつけ方、ターニングポイントがお上手です。(細水先生の授業を拝見していても感じましたが)短時間にいろいろな考え方が出ても、着地点をしっかりと見定めていますね。子どもたちからどんな考えが出てくるか、そのバリエーションを多く持ち合わせている先生は、着地点を見定められるのだと思います。子どもたちからどんな反応があるか、頭の中で予想して分かっている先生はいいですね。あれがくるかな、これがくるかなと分かっていないと、先生自身が当惑してしまう。研究授業などで失敗したな、と感じることも多くありましたが、その辺りの見定め方も大きいですよね。
 先生自身が自ら方向を曲げてしまうこともあったりして。

学校が保護者に伝えていくこと

 「アイテム」導入の際は、お値段が高いこともありましたから、まずPTA総会の時に保護者の方に説明は致しました。「今年から新しい教材を使います。今までのものと比べると少し難し目の問題集ですが、ちょっとやらせてみたいと思っています。算数嫌いのお子様には少し抵抗があるかもしれませんが、よろしくお願いします」というように。保護者の方は今は何処でもそうでしょうけれども、お金に関してはかなりシビアです。なので、事前説明は必要かなと思いました。しかし説明後には、別に反論もなく、保護者の方が大きく頷いてらしたのが印象的でした。保護者の方も、向上心をくすぐられたところがあったんじゃないでしょうか。

記者

 「アイテム」に対しての保護者の方の反応というのは?

 敢えてそこは聞かないようにしています。
聞くと、その要望のひとつひとつに(学校は)答えていかないといけないですよね。それはかなり大変な事ですから。広く多くの意見を聞きましょう、という調査のようなことはしないようにしています。「これはいいですよ」という情報は保護者に伝えますけれどもね。
かえって収拾が付かなくなることもありますから。保護者の方を過度に刺激するようなことは敢えてしません。こちらで対応が出来る範囲内の事を、保護者に求めて伺うように気をつけています。
学校評価は勿論していきますし、公表はしています。評価の結果は、保護者の方にも返しています。それは学校側としてきちんとやっていきますけれどもね。保護者の方からの評価としては、まあまあのところかと思います。学校は頼りがいがある、と保護者から思われていないといけませんね。そうでないと、全てがうまくいかなくなりますから。色々な意見や声が出ますけれども、耳を貸す部分と貸さない部分と、それはある意味では学校側も色分けしていかないとやっていけませんね。

 当校でチャレンジの時間を設定し、コースの選択をするときの話ですが、発展コースでは「アイテム」をやるとことが分かっていて、敢えて発展コースを選んでくる子がいます。コース選択は自発的なものに任せていますけれども、保護者の意向もかなり強く反映されていますね。発展コースを選んでくる子どもの数が増えているということは、それが保護者の方の評価とも取れますね。発展コースで使う「アイテム」は少し難しいです、としっかり伝えてあっても、発展コースを選んできますからね。保護者の方が理解を示してくださっていることに対しては、有り難いと感じています。決して裕福なご家庭ばかりではないと思いますけれどもね。

子どもに苦手意識を持たせない工夫

 当校では、無理はしないです。他の学校に比べても、無理な事はしないようにしていますね。
 子どもたちに対し、ここまでできたら次、というように追い込むことはしないし、出来なかったから恥ずかしいと思うようなこともないようにしています。そういう意味では、子どもたちが算数嫌いにならないよう、配慮はしています。そのためか「算数が嫌い」という声は、子どもたちからあまり聞かないですね。問題が解けなくて困っている子に対して、「私は算数が苦手」という意識を持たせないように、先生方はいろいろな工夫をしています。例えば「その考え方でもいいけど、こういう考え方もあるよね」ということばをかけたり。算数だけでなく、全体的にどの教科もそうですけれども、そういうことばをたくさん持っている先生が、当校には多いですよ。時には解けなくて、悔し泣きをしている子も見かけますけれどもね。(そういう子はうんと泣かせておきます。)極端に出来ない子は別ですけれども、5段階評価の3くらいの子には、苦手意識を付けさせないようにしたいですよ。子どもはいつ好きになるか、いつ得意になるか分からないですから。ある日突然、ちょっとした拍子で一皮むける子というのがいますからね。そういうことに期待しています。
 「アイテム」でもね、「ここはやらなくていいんだよ」とか「分からない問題があってもいいんだよ」と言って切り上げてしまうこともあります。「分かる問題ばっかりだったら困るでしょう」と言ってね。

 子どもの満足度も大事にしながら、ですね。

 こちらが「この教科は苦手なんだろうな」と思う子どもでも、当の本人は全くそんな意識を持っていないということもありました。
 例えば体育でも、サッカーだけは得意という子は、他の競技が出来なくても体育が苦手とは思わないんですよ。

 本校は、保護者の方もご家庭でうまく褒めて育てる方法を取り入れてらっしゃるな、と感じますね。

 先生が「どの教科が好き?」と聞くから子どもに好き嫌いが出来る、ということもあると思います。「この教科が好き」とか「この教科が苦手(嫌い)」ということを意識付けても、仕方がないですからね。そういう発問はしないんです。いい意味で、己を知らない子でいるように仕向けている部分もあります。どちらかといえば、いつでも好きになる可能性を子どもたちは持っていますよ。

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