平成27年度 全国学力・学習状況調査を読む
■はじめに
今年4月実施した平成27年度全国学力・学習状況調査の結果は、上位県と下位県の間の差が縮まり、全体として底上げが図られていると分析されている。都道府県別には、秋田県、福井県の上位は変わらなかったが、上位層にあった石川県が小学校の国語B、算数A・Bで秋田県・福井県の間に割って入った。中学校では国語A・B、数学A・Bでは秋田県、福井県が首位を競い合ったが、石川県が第3位に位置付き、存在感を示した。本年度の同調査は、理科が3年ぶりに調査対象になり、前回の抽出調査から全員参加方式に初めて変わった。3年前に児童生徒質問紙調査で、教科の勉強で理科好きだった児童が81・5%いたが、中3になった本年度調査では61・9%にとどまり、マイナス19・6ポイントと推移。その落差は国語(マイナス2・9ポイント)、算数・数学(マイナス8・9ポイント)を大幅に上回った。
■「依然として課題」の設問も
教科ごとの平均正答率は小学校が国語Aで70・2%、算数Aで75・3%とともに7割を超えた。だが、いわゆる活用を主としたB問題では、国語Bが65・6%あったものの、算数Bは45・2%と低く、依然として課題となった。
中学校では、国語Aが76・2%、数学Aが65・0%。国語Bが66・2%と6割台に達した。数学Bは42・4%で最も低い。
理科の平均正答率は小学校が61・0%、中学校は53・5%。ちなみに前回調査では小学校が61・1%、中学校が52・1%だった。
前回調査から改善のあった部分もあるが、B問題を中心に、「依然として課題」として指摘される設問も少なくない。各教科で出題した問題から、平均正答率の低かったものを見る。
例えば、小学校・国語A。「新聞のコラムを読む」問題で、コラムの中で筆者が引用している言葉を書き抜く設問の正答率が20・0%と低率だった。誤答傾向を分析し、「『引用』とは、本や文章の一節や文、語句などを引いてくることであると理解すること」を課題視した。国立教育政策研究所では指導改善のポイントに引用したことについて自分の思いや考えを書くことなども指導、目的に応じて引用できるだけでなく、自分の考えで補説したり、説得力を高めるなどの目的意識を持たせる―などを挙げた。
小学校・国語Bでは、インタビューした内容をコメントとして学級新聞にまとめるという設問の正答率が34・9%と低かった。一定の条件を示されてまとめる力などに課題があったことから、地域の人との交流会を設定してインタビューをするなど、学校新聞作りなどの授業アイデアなどを示した。
小学校の算数ではB問題の「基準量、比較量、割合の関係を捉え、基準量を求めることに依然課題がある」と指摘した。具体的には20%増量した洗剤が売られていて、増量後にはその量は480mL。増量前の量を問うたものだ。指導に当たっては、20%増量する前の量を求めるための正しい式を「テープ図」や「数直線」をもとに考えたりするなど「子どもたちにとって考えやすい数で、数量の関係を捉えることが大切」などと指導のポイントを示す。
中学校・国語では、例えばB問題の情報を関連させて読む問題。ウェブページの文章、日本の人口推移を表したグラフ、雑誌の記事の一部を読んで、日本の2020年の社会を予想し文章を書く設問で、資料を二つ選択することや「2020年の日本は、」という文に続けて文章を書くことが条件付けられている。この正答率は23・3%と低率だった。課題に対処するため、複数の本や資料から得た情報を自分と結び付け考えること、自分の考えを深めたり広げたりするために学校図書館やインターネットを利用して主体的に情報を探すことの重要性、必要性を挙げている。
中学校・数学ではB問題の一つが、正答率が12・3%ときわめて低かった。新入生歓迎会での部活動紹介でプロジェクターを使い、スクリーン映像を投影する際、プロジェクターの光源は変えられないため、投影画面面積を変えて映像の明るさを2倍にするにはどうすればよいかという設問。(映像の明るさ)=(プロジェクターの光源の明るさ)÷(投影画面の面積)という式が提示され、解答の選択肢には「投影画面の面積を2倍にする」と「投影画面の面積を1/2倍にする」がある。「光源の明るさを定数とみて、式の形から反比例だと判断できるか?」がポイントになるという。
小学校・理科では、例えば、活用に当たる枠組みの設問で、水の温度と砂糖が水に溶ける量との関係のグラフから、水の温度が下がったときに出てくる砂糖の量を選び、選んだわけを書くものが正答率29・2%と低かった。
5年の「物質・エネルギー」の「物が水に溶ける量は水の温度や量、溶ける物によって違うこと」を基にした粒子に関する問題だ。
グラフを基に考察して全体の傾向を読み取ることを求め、学習指導に際しては、「水温が下がると砂糖の溶ける量が減るという傾向性について、食塩が溶ける量と比較したり、図や文で表現したりする活動が考えられる」としている。
中学校・理科では、同じく活用に当たる枠組みの問題の一つで、物体の凸レンズによる実像がスクリーンに出るとき、凸レンズと物体の距離、凸レンズとスクリーンの距離、像の大きさを一覧表にしたものを使って問いを立てた。「凸レンズと物体の距離が長く」なったときに、凸レンズとスクリーンの距離は長くなるのか短くなるのか、像の大きさは大きくなるのか小さくなるのかを聞いた。
表中の数値の変化について矢印を使って増加傾向にあるのか減少傾向にあるのか、視覚的に表現して、「従属変数が複数ある実験の結果から規則性を見いだすようにするための教師の支援」をしていく指導方法などを例示した。
3年ぶりの理科調査の結果から、改善した部分はあるものの「観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明すること」は課題と指摘されている。
■「仮設立て観察・実験指導」と学力が相関
質問紙調査では、理科に関する課題がクローズアップされている。
学習に対する関心・意欲・態度に関する質問項目では、小学校よりも中学校で肯定的解答が減少する傾向は一般的だが、その減少率が国語、算数・数学と比べても、顕著な傾向にあった。
調査分析に当たって、平成24年度に小6だった児童が、27年度調査では中3の生徒になっていることから、同一世代での推移を見通すことができた。
例えば、理科だけにフォーカスしてみると、「教科の勉強が好き」は小6時に肯定率81・6%から中3になると61・9%へと19・6ポイント減。同様に、「教科の勉強は大切」が86・4% から69・7%と16・7ポイント減、「教科の勉強が分かる」は86・0%から66・9%と19・1ポイント減、「教科の勉強は役立つ」は73・4%から54・6%と18・8ポイント減と、軒並みに大幅減少していた。
国語、算数・数学で減少幅が10ポイントを超えていたのは、算数・数学の「教科の勉強は大切」が10・3ポイント減、同じく算数・数学の「教科の勉強は役立つ」が18・1ポイント減の みの状況で、これらと比較しても、理科の場合、その落差が大きい。
また、理科に関する指導方法と学力の関係を見たときには、平均正答率が高い傾向に結び付いたのは「自ら考えた仮説をもとに観察、実験の計画を立てさせる指導」「観察や実験の結果を整理し考察する(分析し解釈する)指導」「観察や実験におけるカードやノートへの記録・記述の方法(観察や実験のレポートの作成方法)に関する指導」を「よく行った」学校だった。
24年度と比較した場合、こうした指導は増加傾向にあると分析しているが、その中身が問われるところだ。こうした指導が増えたことで、全体の底上げにつながっているのか、理科好きの育成につながっているかは、調査結果から言えば課題となるところだろう。
また、学校での指導と学力の相関について、本年度の質問紙調査で新しく設けた項目から、その状況を見る。
その一つが「児童生徒が学級やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、表現するなどの学習活動」についての問い。結果、小・中学校ともに「よく行った」と回答している学校の平均正答率が高い。
「授業で扱うノートに、学習の目標(めあて・ねらい)とまとめて書く指導」では、「よく行った」小学校は、やはり平均正答率が高かった。
■大阪・中学校、全国水準に躍進
本年度の調査に関しての大きなトピックは、大阪府教育委員会の調査結果の活用が幾つかの課題を突きつけたこと。
その一つは、まさに全国調査の活用の問題。高校入試の調査書評定への絶対評価導入を進めてきた府教育委員会では、今年の3年生がその過渡期に当たることから、2年時に参加した「チャレンジテスト」結果や、全国調査の平均正答率を使って、学校ごとの学力状況を客観的に表す数値作りに活用することを、学校、保護者などに周知してきた。
もともと全国学力・学習状況調査は「指導改善」を目的として主に活用し、入試での活用を想定しないため、文科省は「待った」を掛け、有識者会議も入試活用には否定的だったものの、今回限りということで容認する結果になった。
もう一つは、学力向上の意味だ。都道府県別の状況では、大阪府は例年、低位に位置付き、学力向上策は他県同様取り組まれていたのだろうが、特に中学校では今回大きく改善した。これをどう見るか。入試活用の影響などはないのか。昨年度の全国水準との差は中学校の国語Aが-2・4、国語Bは-3・8、数学Aは-2・4、数学Bは-2・9といった状況だったが、本年度は国語Aが-1・4、国語B-1・0、数学A-0・1、数学B-0・2と躍進し、数 学などはほぼ全国水準に追いついた。
来年度の調査結果がどう推移するのか、注目すべきポイントの一つだろう。