平成31年度(令和元年度) 全国学力・学習状況調査分析

平成31年度(令和元年度) 全国学力・学習状況調査分析

大学入試改革 頓挫したツケを支払うのは誰か

英語発信力、読解力不足が明らかになった1年

日本教育新聞社寄稿

 文科省は2019(令和元)年12月、2021(同3)年1月に実施する大学入学共通テストで予定していた国語、数学Ⅰの「記述式問題」導入を取りやめた。11月には同じく大学入学共通テストに導入予定だった英語4技能を測るための民間の英語資格・試験活用の延期に続く表明である。
 これにより、中央教育審議会が2014(平成26)年12月に答申した「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」を受け、課題の検討を引き継いだ高大接続システム改革会議「最終報告」(2016〈同28〉年3月)など、平成の終わりに端を発した大学教育、高校教育、その間をつなぐ大学入試の「三位一体の改革」の一角が、令和の時代を迎え、ひと頓挫した。
 だが、本年度に公表された全国学力・学習状況調査、PISA2018(OECD生徒の学習到達度調査2018年調査)の結果は、英語4技能のうち発信力に関わる能力や、情報を読み解き、記述する力などの不足を露呈した。
 さらに、全国学力・学習状況調査では英語調査でのスピーキング力を測るためのパソコン端末機器類の不十分さも顕在化し、PISA2018のコンピュータ方式での調査は機器操作の不慣れなども指摘され、教育への投資をなおざりにしてきたツケが回ってきたと言えそうだ。
 果たして、今回の大学入試改革停滞のツケは、今後、誰がどんな形で支払わされるのだろうか。

■「話す」「書く」力に課題

 「平成」時代だった4月に実施した全国学力・学習状況調査は、2007(平成19)年度から実施し、政権交代による悉皆調査から抽出調査、東日本大震災の発生による調査見送り、熊本地震での一部地域調査見送りなどを経て、今回が12回目。悉皆方式で小学6年、中学3年の全児童・生徒約90万人を対象として行われた。
 これまで問題形式をいわゆるA問題(主として「知識」に関する問題)、B問題(主として「活用」に関する問題)に分けて実施していたが、融合した問題形式に変えた。
 また、国語、算数・数学に加えて、初めて中学に英語が追加(3年に1回実施)したことも、特徴である。
 その中学英語では4技能の測定を試みた。平均正答率は「聞くこと」68・3%、「読むこと」56・2%、「書くこと」46・4%、「話すこと」(参考値)30・8%という結果だった。発信力、いわばアウトプットする能力に課題が残った。
 「話すこと」が参考値となったのは、測定するために必要なパソコン端末機器が不十分だったため。調査実施を希望制にした。その上、実施した学校でも不備があるなど、今後の調査の仕方に課題を残した。
 情報を正確に聞き取れた「聞く」問題には9割の正答率を超えたものがあった。7割を超えて正答率の「読む」問題もあった。これらの正答率の高さについては「英文を聞いて概要や要点をとらえる言語活動が行われていたと思っている生徒の正答率が高い」との分析がある。
 4技能の中で正答率の低かった「書く」問題。例えば「与えられた情報に基づいて、ある女性を説明する英文を書く問題」の中で最も正答率が低いのは、「住んでいる都市」「Rome」を説明する正解「She lives in Rome.」(33・8%)だった。正答率の低さを分析して「人称や時制、動詞や前置詞などの文法の知識」が実際場面で活用できないことを課題視するが、基本的な文法が身に付いていないのではないかと懸念される。
 また、正答率が1・9%しかなかったのが、「まとまりのある文章を書く」問題。具体的には「学校を表す2つのピクトグラム(案内用図記号)の案を比較して、どちらがよいか理由とともに25語以上の英文で意見を書く問題」である。
 どちらか1つを選んでいること、2つの案に触れながら選んだ理由を書いていること、25語以上で書いていること―などが正答の条件になっている
 この問題などは、英語力もさることながら、情報を読み解き、自分の考えを表明し、理由も述べることできるという、国語の問題にも共通する能力が問われている。
 英語の調査結果については、小学校1年段階から「グローバル・スタディ」という英語教育を実施している政令市・さいたま市の平均正答率が話題になった。
 全国には、教育課程特例校として小学校低学年から英語科、外国語活動を実施している自治体も少なくない。
 こうした自治体も視野に、何が英語力の高さにつながっているのかいないのか、その相関について、研究をする必要はないだろうか。
 今回の結果に対して、小学校英語の導入が功を奏していないとの指摘もあるが、小学校での英語に親しむ活動を経て、中学校に入学してきた生徒の「耳がよくなっている」との評は、中学校英語教員からよく聞く話である。これは「聞くこと」の平均正答率の高さにつながっているのではないか。
一方で、英語に親しんでこなかった生徒の時代にも立ちはだかった、英語の上達に欠かせない英単語の蓄積、文法の理解という「壁」は、新世代にとっても乗り越えなければならない「壁」として存在する。英語を好きになることに加えて、地道な学習をやり抜く力を育てることまた必要なのではないか。

■情報を読み解き、論ずる力を

 いわゆるA問題(知識)とB問題(活用)が統合された初年度の全国学力・学習状況調査結果では、活用能力に課題があることは変わることがなかった。
 小学校・国語では、正答率が28・9%と低かった「公衆電話」問題。児童の1人が公衆電話について調べたことを、なぜ調べることにしたのか、公衆電話が必要になるときはどんなときか、どういう使い方や特徴があるのか、どのような場所に設置されているのか、これを調べたことを通して考えたことなどで構成した報告書にまとめた。
 出題はこれらの報告書を読んだ上で、報告書中にある「調査の結果から、公衆電話は、わたしたちにとって必要がなくなってしまったわけではないと考えました。なぜなら、」という文章の続きを書くことである。その際、報告書の中の言葉や文を取り上げたり、報告書らしく表現したり、40字以上70字以内に書くことなどの条件が付されている
 これまでの調査によく見る形式の出題であった。「相手に分かりやすく情報を伝えるための記述の工夫を捉えたり、目的や意図に応じて自分の考えの理由を明確にし、まとめて書いたりすることに課題がある」と分析されている。
 中学校・数学でも問題文そのものの読解が必要な問題で、正答率が低い。
 冷蔵庫の購入に当たり、A、B、Cのタイプを容量・本体価格・1年間あたりの電気代を比較した表を作成し、使用年数も加味しながら総費用の算出する式を示す。
 問題では、冷蔵庫BとCの総費用が等しくなる使用年数を求める方法を、二択から選ばせるものだ。問題文の長さは、国語の問題並みで、国語力も併せて問われている。正答率は35・6%。
 中学校・国語では読解力もさることながら、日常生活と言語活動の関わりに危機感を感じさせる結果もあった。
 「全国中学生新聞」の「声の広場」に投稿する場面を設定して、封筒に宛名を書く問題が出ている。投稿先も新聞の下欄に明記されており、紙面を見れば必要な情報に気づく、考える必要もない問題である。この正答率が57・4%。
 基礎的な知識の定着にも不安がある。先の「公衆電話」問題の中では、「公衆電話についてのかんしんをもってもらいたいと・・・」の「関心」(正答率35・8%)や、「三十人を調査のたいしょうとして・・・」の「対象」(同42・1%)が書けないのは、読解力以前の問題である。
 「主体的・対話的で深い学び」による授業改善は学校教育の大きな使命だが、働き方改革が求められる学校で、これ以上の役割の付加を求める時代は終わりを迎えようとしている。読書習慣なども含み、日常生活で言語活動を豊かにすることは、家庭を主に学校外の人々の協力も欠かせない。家庭と手を携えながら学力を定着、向上させることや、行政機関、地域のNPO、組織・団体との連携も視野に、総合力で子どもたちに必要な学力を育てていきたい。

(日本教育新聞社編集局)