令和4年度 全国学力・学習状況調査分析

令和4年度 全国学力・学習状況調査分析

コロナ禍、3年間で学力は育ったか
- どう付ける 「考える」力と「書く力」 -

日本教育新聞社寄稿

「全国学力・学習状況調査」の詳細については以下をご覧ください。
「全国学力・学習状況調査」(国立教育政策研究所)

 本年度の全国学力・学習状況調査は国語、算数・数学に加えて、4年ぶりに理科が対象教科となった。7月下旬に調査結果は公表された。都道府県別の順位は小6では国語で秋田、石川、算数で石川、東京、福井、理科で秋田、石川、中3では国語で秋田、石川、福井、数学で石川、福井、理科で石川、福井が上位を占め、おなじみの県名が並んだ。結果公表後、一部報道によって行き過ぎた「事前対策」の実態が明らかにされ、学力調査の意義が損なわれる事態も生じた。また、今回の調査対象となっている中3は入学当初からまるまる3年間、コロナ禍の影響を受けている学年であり、コロナ禍前の調査結果との比較を基に、伸びきれない学力を見極めて、今後、教育行政はどう補填していくか対策を講じることが喫緊の課題になる。いくらか落ち着きを取り戻してきた学校現場には、自ら考え、説得力のある文章を書く力をどう付けるか、授業改善が求められる。

■4回目実施 理科は低迷?

 今回の調査に参加したのは、小学校で公立の児童96万5761人、1万8671校(99・3%)、国立6097人、73校(97・3%)、私立6253人、123校(50・8%)の計97万8111人、1万8867校(98・7%)、中学校で公立の生徒89万2585人、9348校(99・1%)、国立9640人、80校(100・0%)、私立2万6284人、334校(43・7%)の計92万8509人、9762校(94・9%)。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、約1ヵ月間延長して実施した学校が小学校で107校中98校、中学校で65校中50校あった。
 また「児童生徒質問紙調査」について、オンラインによる回答方式を試行的に取り入れ、小学校1837校10万4848人、中学校1023校9万9244人が活用した。
 調査結果をみると、平均正答数・平均正答率は小学校の国語14問中9・2問、65・8%、算数16問中10・1問、63・3%、理科17問中10・8問、63・4%、中学校の国語14問中9・7問、69・3%、数学14問中7・3問、52・0%、理科21問中10・4問、49・7%だった。
 平成19年度から全国学力・学習状況調査は悉皆で開始し、24年度から理科を追加した。以後、理科は3年に1度程度の実施し、今回が4回目。初めて平均正答率が5割を切った。
 調査結果から正答率の低かった問題は、現状で重点的に指導、育成すべき力を突き付けている。課題改善のために、文科省や各都道府県教委が示す授業の工夫やアイデアなどを、日常の授業の中で、積極的に取り入れるようにしたい。

■小学校・算数 果汁の割合で苦戦

 小学校国語で、正答率が最も低かったのは「文章に対する感想や意見を伝え合い、自分の文章のよいところを見付ける」問題。学習指導要領の5・6年の「思考力、判断力、表現力等」の「B書くこと」に位置付く。平均正答率は37・9%だった。
 美化委員だった卒業生の話を5年生の時に聞いたことのある「島谷さん」が運動委員になって頑張りたいと抱負を語った文章(【文章2】)を素材に、「川口さん」との【伝え合いの様子の一部】を読んで、「島谷さん」になって①「【文章2】のよさを書くこと」②【文章2】から言葉や文を取り上げて書くこと③六十字以上、百字以内にまとめて書くこと―の三つの条件を示して出題した。
 条件①では「a 聞いたことや経験したことをもとにしていること」「b 最後の段落にがんばりたいことを具体的に書いていること」「c a、b以外のこと」を「よさ」の内容として示し、解答については条件①②③を満たしているもののうち、条件①のa、bの両方を書いているものや、条件①のaを書いているもの、条件bを書いているもの、条件①のcを書いているものを、それぞれ正答とした。
 条件②は満たしているが、条件①を満たしていない誤答が28・3%と、割合としては高かった。これは【伝え合いの様子の一部】を考慮せず、「【文章2】だけを見て考えている」と指摘している。
 「授業アイディア例」ではペアやグループで書き手の目的や意図を共通理解することで「目的や意図に応じた文章の構成や展開になっているかを判断することができ、よさを見付けやすく」なることや、ペアやグループの伝え合いに「教師が参加」し、「文章のよいところを児童から引き出したり、児童の発言を価値付けたりすることが大切」とポイントを示す。
 小学校算数で正答率が最も低かったのは「果汁が含まれている飲み物の量を半分にしたときの、果汁の割合について正しいものを選ぶ」もので「数量が変わっても割合は変わらないことを理解しているかどうかをみる」問題。正答率は21・6%。
 果汁20%、500mLのジュースを250mLと2分の1に分けたとき、果汁の割合がどうなるかを三つの選択肢から選ばせた。正解は「飲み物の量が2分の1になっても、果汁の割合は変わりません」だが、67・7%が「飲み物の量が2分の1になると、果汁の割合も2分の1になります」という誤った選択肢を選んでいた。
 文科省の説明資料の中には、日常の言葉に置き換えることが示されている。「ジュースを二人ずつ半分にわけると、味は変わりますか?」。これが「生きて働く知識」だという。
 小学校理科で最も正答率が低かったのは、鏡を使っての「的あてゲーム」を扱った問題。学習指導要領では3年の「物質・エネルギー」に示されている「日光は直進し、集めたり反射させたりできること」を理解しているかを問うものだ。正答率は27・9%。
 「習得した知識を、次の学習や生活などに生かすことができるようにすることの重要性について意識して授業を改善することを意図している」という。

■中学校・理科 重力とつり合う力が1割台の正答率

 中学校国語では、先端技術との関わり方で「スマート農業」についての意見文の下書き、それに対するコメント、農林水産省のウェブページにある資料の一部が示された問題で、コメントの一部なども踏まえて、さらにスマート農業の効果を書き加えよう、という出題。正答率は46・5%と低かった。
 書き加える際に農林水産省のウェブページにある資料の一部から必要な情報を引用し、その際、カギカッコでくくることと、「例えば、」に続けて書くことという条件を付けた。
 学習指導要領では1年の「知識及び技能」「(2)情報の扱い方に関する事項」「イ《情報の整理》」と、同じく1年の「思考力、判断力、表現力等」「B書くこと」「ウ《考えの形成、記述》」の定着をみるものだ。
 根拠を明確にして書くことができるかなどはおおむね正答率が低い傾向にあり、小学校でも課題として挙げられている。学校現場では、「なぜならば」という言葉を使った授業中での発表はよく目にし、根拠を問う発問も少なくない。調査問題になると、解答に反映しない原因があるのだろうか。
 中学校国語では、記述式よりも、正答率が低い問題があった。書写の行書について理解しているか、を問うものである。
 行書で半紙に最初に書いた「夢と希望」という文字に対して、【友達や先生の助言】を掲示し、さらに書き直した文字を掲げている。最初に書いた文字を友達が「行書の特徴を踏まえて書くことができている」と述べていることを踏まえて、その具体的な内容を聞いた。この正答率が最も低く39・5%。
 行書の基礎的な特徴については、1年の「知識及び技能」「(3)我が国の言語文化に関する事項」「エ(イ)《書写》」に位置付く。
 知識として行書の特徴を学び、定着していないと正答にたどりつけない問題だ。書写に充てる時間は少ない。コロナ禍に十分な学習指導ができていただろうか。
 中学校数学は、学習指導要領で示す領域を問わず記述式の問題の正答率が低調だった。
 中でも最も正答率が低かったのは、四角形と正三角形を組み合わせた図形の証明問題で、13・3%。無答率は38・0%と、こちらは最も高かった。調査用紙の最後の問題なので時間不足も考えられるが、この問題の一つ前、同じ大問の(1)の正答率は73・6%と、比較的高い割合にあり、問題として手ごわかったのかもしれない。
 説明資料では「長方形の大きさや形を変えた図形を観察する際には、コンピュータを活用することが効果的」「1人1台端末を利用し、成り立つと予想される図形の性質を見いだし、それを他の生徒と共有するなどの活動も考えられる」と、さまざまな図形に触れ、分析することを助言する。
 中学校理科は、「ファーブル昆虫記」を読み、アリの行列の作り方に興味を持ったことを契機に、レポートしたものを素材に出題した。その中の設問の一つ、「生物X」が昆虫か否かを選択して、その根拠を書く記述式問題(第2分野)の正答率が39・8%と低かった。
 だが、理科ではその他の記述式問題の正答率は5割を超えており、一概に記述式問題の正答率が低いとはいえないかもしれない。
 理科で正答率が最も低かったのは、選択式の「物体に働く重力とつり合う力を矢印で表し、その力を説明する」問題(第1分野)。15・5%という正答率だった。
 問題は、筒の中に置いたばねの上におもりを載せたときに、重力とつりあう力を矢印で示したものをまず選び、さらにその説明として適切なものを選ぶ、と二つの選択肢が正しく選ばれているかをみた。
 「ばねがおもりを押す力」という説明の正答を77・6%が選んでいたが、おもりを載せたときに、重力とつりあう力を矢印で表した図の選択肢から正答を選んでいる生徒は17・9%にとどまった。
 こうした力を育成するため、身の回りで力がつり合っている物体を探してタブレット端末で撮影し、その写真につり合う力を矢印で記入して、グループで共有することなどの授業を例示した。

■〝失われた学年〟としないために

 今回が4回目の調査実施となった中学校理科は、前回調査(平成30年度)の平均正答率が66・5%を大きく下回った。正答率49・7%が5割を切ったことで課題視された。その背景には、新型コロナウイルスの感染リスク回避のため、実験・観察などの授業が減少したことを指摘する論調が目立った。
 質問紙調査をみると、確かに、児童・生徒が観察や実験をする授業を行った頻度を「週1回以上」と回答した学校は、中学校が前回調査から約20ポイント減少している。
 だが、一方で、出題内容は同じではないが、小学校理科では前回調査結果の60・4%から今回63・4%と上昇し、前回を上回る結果が出ている。
 児童・生徒が観察や実験をする授業を行った頻度「週1回以上」の小学校は、前回調査より約15ポイント減少した。中学校同様、観察・実験が減っていることに変わりがない。観察・実験が減少する中で、もし小学校理科の平均正答率が向上していると捉えることができるならば、今後の指導に生かすため、その要因も厳密に分析する必要があろう。
 また、今回の調査対象となった中3は、小6の3学期途中に一斉休校を余儀なくされ、中学入学後、1年生の1学期から第1波のコロナ禍に見舞われた。5月の連休前後まで「緊急事態宣言」下で登校もできなかった。以後、第7波まで、全てを経験した学年である(令和4年11月現在)。
 休校しなければならなかった学校が授業時数をどう確保するのか、悪戦苦闘したことは記憶に新しい。学校側が基礎・基本的な知識・技能を教示するのに手いっぱいで、「深い学び」に踏み込めなかったとしても時間的な余裕のなさを考えれば、批判のしようがない。
 小・中学校とも、コロナ禍の今後は予断を許さないが、休校が求められ、開校していても分散登校、学校行事の延期・中止、校外での多様な人々との交流活動も軒並み、停止した状態が続いたコロナ禍最盛期よりはいくらか落ち着いた学校生活を送れるようになった。
 今後、教育行政は〝ウイズコロナ〟世代が、コロナ禍前の児童・生徒の学力まで届いていない部分について、義務教育を修了する間までに補填するための施策に力を入れる必要がある。
 手をこまねいて〝失われた学年〟と、後に揶揄されることがあってはならない。
 学校でも例年以上に、調査結果を基に児童・生徒の学力の現状を念入りに分析し、必要な学力を育成するための指導・改善に当たることを期待したい。

(日本教育新聞社編集局)